No Nukes

茨城県原子力防災訓練モニター報告(NGO防災研究会レポートより)

 JCO臨界事故から3年目の2002年9月30日、茨城県主催の原子力防災訓練が行われた。前年は当時の東海村核燃料サイクル開発機構・再処理工場での事故を想定しての訓練が行われたが、この訓練では同じく核燃サイクル・大洗工学センター内「常陽」での事故を想定したものだ。

 住民サイドから原子力防災について検討を重ねてきたNGO原子力防災研究会を中心に監視行動が行われ、同時に原子力事故時の住民ネットワーク作りの参考にするためのモニタリング調査を行った。

 モニタリングの概要は、以下のようなものだ。

 まず監視行動に参加しているメンバーが記者発表などを通じて入手した情報(事故発生、経過、終息の3回の情報)をセンターに連絡し、これを受けてセンターから1次モニターに登録した24名に電話、FAX、電子メールなどによって事故情報を伝達する。

 1次モニターはあらかじめ決めておいた2次モニター(全体で49人)への連絡を試み、その結果をレポートする。

 可能な場合には、2次モニターからさらに3次モニター(全体で25人)への連絡を試みた。結果として、このモニタリングに参加した人は、総勢100人にのぼった。

 私は大洗町の訓練現場で監視行動を行っていた人からの情報を1次モニター登録者へ伝達するセンターの役割を担った。

 1次モニターには、情報端末として有線電話を使用する方が3名、FAXが1名、携帯電話が10名、そして携帯メールを含めた電子メールを希望する方が10名登録していた。

 センターを担った者の実感は、やはり電子メールによる連絡が最も便利で確実なこと。特に、携帯電話で受信できるインターネットメール(携帯電話別に設定されているショートメールは、字数制限がある上、パソコンから送信できないので避けたほうがよい)は、受信する側も時と場所にほとんど影響されず受信可能だ。

 送り手も、モバイル・デバイス(携帯用のパソコン)を使用すれば移動しながら情報を発信できる。

 訓練で私は仕事の関係で、第2報の後に車で埼玉に移動し、移動先で第3報を送信することになったが、原子力災害の怖さを考えると、自らも逃げながら情報を発信することは十分に想定され得る事態だ。

 このモニタリングでは、13名の1次モニターへ電話連絡をするだけで30分前後かかっている。1次モニターであった那珂町の主婦の場合、センターからの連絡を受けて2次モニター5名に電話連絡をするのに、15分ほどかかっていた。

 もし1次モニター13名の最後に電話連絡を受け、そこから5人の2次モニターに電話連絡した場合、最後のモニターに情報が伝わるのは45分後。たったこれだけの人数でさえこうなのだから、何百人とか何千人のレベルとなれば、とても電話連絡では対応できないことは明らかだろう。

 もちろん、直接会話できる電話連絡のメリットは、事故時の不安や恐怖をお互いに支え合い、情報が即双方向になることで、家族同士などでは最終的に最も安心できる方法だと思う。
 しかしスピードと正確さが要求される事故情報の一次段階では、携帯電話を利用したインターネットメールの活用が、普及率の高さから言っても最も現実的だろう。

 伝達した情報の内容については、第1報が午前9時15分に発信開始。
 「本日午前8時43分、茨城県大洗町の核燃料サイクル大洗工学センターの『常陽』にて、事故が発生した模様。午前9時に茨城県の事故対策本部が立ち上がっています。事故の詳細については、今後の情報に注意してください。以上、訓練情報です」

 第2報は、午前10時45分に発信開始。
 「10時30分現在、『常陽』での事故は拡大している模様です。緊急対策を要すると、合同会議で検討中で、間もなく住民への避難要請が出される模様です。近隣の方は、屋内退避、ないしは避難の準備をされると良いでしょう。さらなる情報に留意をお願いします」

 第3報は、午後0時20分に発信開始。
 「11時45分に住民避難は終了。12時に『常陽』での事故が終息したと発表されました。周辺環境での放射線の値は通常値であると発表されています。事故は終息したと発表されていますが、継続して注意をお願いします。訓練はこれで終了します」

 モニター参加者のレポートには、この程度の事故情報では「どのぐらい危険なのか、避難した方が良いのか、ヨーソ剤を飲むべきなのかどうかなどが分からない」との声が記されていた。

 特に子どもを持つ母親は、「学校は子どもを帰すのか、そのまま(子どもを学校に)とめた方が安全なのか、親が迎えに行くべきか、対応するための情報が欲しい」と切実な声を記している。今後の防災訓練や防災住民ネットワーク形成に活かしていく必要がある。

 JCO臨界事故で具体的な恐怖を味わった東海村や那珂町など周辺の母親達は、当時の不安や混乱を今一度思い出し、訓練ではあっても相当な切迫感をもってモニタリングに望んでいた。

 「メールを拝見した時はぎょっとしました。防災訓練だと頭では分かっても、気持ちが動転して3年前のあの日の記憶が生々しく蘇ってきました」

 「もし本当だったらどうしたらいいの? 夫は東京に単身、子はひたちなか、土浦、日立と別々、高校生は授業中じゃ携帯もつながらない。義父は手術して退院したばかり。義母は車椅子。JCOみたいだったら窓閉めるしかできない! こんな状況の時、どうしたらいいか教えて欲しい」

 また大洗での事故想定ではあったが、次のような声もあった。

 「かりに那珂町と直接関係がないとしても、せっかく各戸配置した屋内無線機だから、試験放送程度の訓練ぐらいは取り組むべきだったのではないか。来年のために申し入れをするべき」(那珂町のモニター)

 「つぎのモニター調査として、この無線機を通じて情報を流し(パニックに陥らないように、内容は工夫して)、何時に情報を把握したかなどというのは如何でしょうか」(日立市のモニター)

 現在、原子力関連事故情報を、地震情報と同様に、テレビのテロップで即座に流すことが検討されているが、リアルタイムな事故経過情報をどこまで伝達できるのか、さらには実際に避難が必要になった時に、その判断や方法などをどう住民に伝えるのかが具体的に検討されるべき時に来ている

 テレビやラジオを通じた情報伝達をフォローし、より住民にとって必要とされる情報をきめ細かに提供できるネットワークシステムを構築していくことが問われている。

 その際、今やインターネットメールだけでなく、携帯電話用Webサイトから様々な情報を発信できることにも着目すべきだ。

 例えば、サーファーのために全国の有名な海岸での風向き、風速情報などを毎日流しているサイトなどもあり、事故時の原発サイト周辺の風向きや風速などの情報も、同様にWebサイトから発信することは可能だ。天候のスポット情報は、既に業者によって提供されているので、それほど困難な作業ではない。

 また、あらかじめ事故情報の雛型を作成しておき、事態の進展に合わせて、用意すべきものや準備すべき事も合わせて情報を伝達すれば、パニックに陥らずに対処するのをサポートすることができる。

 インターネット関連のネットワークのみを先行させて、デジタル・ディバイドが拡大することは良くないとの意見もある。
 しかしまずはスピードと正確さを兼ね備え、できるだけ普及性のある核となるネットワークを作り、その周辺に地域コミュニティーなどを通じた様々な情報伝達手段を整備することが必要だ。

 インターネット関連のネットワークのみではまったく不十分だが、しかしそれは必要最低限のインフラストラクチアなのである。

 こうした作業を一歩一歩進めることが、今後の原子力防災のために必要だ。

月別アーカイブ



プロフィール

渡瀬義孝 2008年洞爺湖サミットの開催に合わせ自転車で東京~洞爺湖~札幌1500キロを走破したツーリング洞爺湖に参加。持続可能な未来へ向けエコロジーでリベラルなライフスタイルを! yoshitaka@ihope.jp

このサイトを購読する

RSS登録

  • My Yahoo!に追加
  • Add to Googleに登録
  • はてなRSSに登録
  • lvedoorリーダーに登録
  • エキサイトリーダーに登録



最近のフォト

  • 映画『こつなぎ 山を巡る百年物語』上映会&シンポジウム
  • 無差別爆撃で10万人以上が犠牲となった東京大空襲 作戦を指揮したカーチス・ルメー将軍は戦後日本政府から勲章を授与された
  • 「もんじゅ・プルサーマル・再処理」は核のゴミ問題を先送りする隠れ蓑
  • 特集「メディアを変えるリテラシー」エコ&ピース月刊誌Actio4月号発売中!
  • 山口県上関町田ノ浦の美しい海を埋め立てないで!

ウェブページナビ