Review
映画『祝の島(ほうりのしま)』分をわきまえた人間の営みこそ持続可能な未来につながる 原発よりもはるかに偉大な祝島の棚田
30年近く中国電力の上関原発計画に反対を続けている島がある。
瀬戸内の入口、山口県上関町の祝島だ。
この島を訪れても、主に釣り人向けの民宿が数軒あるだけ。
コンビニは勿論、自動販売機すらない。
でもこの島に降り立った瞬間、そこに流れる時間がとてもゆっくりしていることに気付く。
私が生まれた昭和30年代には、まだ日本のいたるところに流れていた時間だ。
そう、この島の最大の魅力は、このゆったりとした時間の流れにある。
訪れた人はそれを肌で感じることができるが、この映画はそれを見事に映し出した。
映画は、祝島に流れるゆったりとした、奥深い時間の流れを見事に表現することで、都会に生きる私たちが日々追いかけられている時間がどれほど窮屈で殺伐としたものか、あらためて気付かせてくれる。
波にただよう小さな船の上に座り、鯛の1本釣りをする正本英一さんは74歳。
釣れた魚に必ず「よく来なさった。ありがとう」と語りかける。
「50年以上漁をしても未だに微妙な潮の流れの変化は分からない。原発ができたら間違いなく海は死んでしまう」
その言葉は、どんな科学的データよりも説得力がある。
祖父が島の斜面に造った棚田を守り続ける平萬次さんは77歳。
子どもの時の手伝いを含めれば、その棚田で70年間米を作り続けている。
祖父の亀次郎さんは、高さ30メートルを超える城壁のような石を積み上げて棚田を造った。
斜面の上のほうにある岩を下に落としながら積み上げたとはいえ、すべて人力。
子どもたち、孫たちに美味しいお米を食べさせたいとの一心で、信じられないような日々の作業を何十年も積み重ねた成果だ。
その棚田で今も米を作り続ける萬次さんだが、祖父の亀次郎さんはこう語っていたそうだ。
「曾孫の時代になれば誰も引き継ぐ者はいなくなり、またこの棚田は原野に戻っていく。人間の営みとはそういうものだ」
子や孫のために血のにじむような苦労をして造った棚田も、百年もしないうちになくなる。
それでも、子や孫たちが美味しいお米を食べられればそれで十分だと。
読み書きができなかった亀次郎さんが作った歌を、棚田の巨大な石に刻む萬次さん。
今日もまた
つもりし雪を かきわけて
子孫のために ほるぞうれしき
正直、私はこの亀次郎さんの言葉に一番衝撃を受けた。
悠久の時の流れのなかで、自らの人間としての営みのちっぽけさをきちんと自覚し、決して奢らず、かといって諦めもせず、与えられた生を全うする。
そして子や孫に益はあっても、決して彼らの負担にはならないように、精一杯の努力をする。
これと対極にあるのが大量生産、大量消費、大量廃棄を前提とした原発建設だろう。
現在の欲望を満たすために、子どもたち、孫たちどころか、この先何万年も続く核のゴミを出す。
原発を一度造れば、ただの原野に戻ることはあり得ない。
にも関わらず中国電力は、祝島の人々の営みを、「一次産業だけで食べていくことが難しいのはみなさんもお分かりでしょう」と侮蔑し、わずか数十年(原発の寿命)の電力供給のために、何百年も続いてきた最も持続可能な人々の生活を踏みにじろうとしているのだ。
映画冒頭に流れるテロップは象徴的だ。
故高木仁三郎氏の著書『いま自然をどうみるか』よりこんな言葉が引用される。
人間は火を燃やす竈を精密に強大にし、また、術に長けはしたけれど、なお壮大な生物の文化には合流しえずにいる新参者なのかもしれない。
核の竈などという、自然界の文化とはなじまない、ある意味ではきわめて野蛮な文明を発達させたことなども、その現われといえるかもしれない。
人間は確かに頭脳も大きく理智にも長じ、言語機能に優れた生物ではあるけれども、いや、そうであるからこそ、その意識的な行為によって、今後は生物全体の創出する<文化>の世界へと合流していくべきなのだろう。
全国で上映が始まっている。
ぜひ多くの人に観てもらいたい映画だ。
『祝の島』公式ホームページ
http://www.hourinoshima.com/
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