Review
映画『劔岳 点の記』 日本初の測量を実際に記録した貴重な映像があるはずだが
日本の冬季登山で最も厳しい山と言われる剣岳。
明治時代末期、日本で最初にこの山に登頂して測量することを目指した、当時の陸軍参謀本部陸地測量部(現在の国土地理院)の苦闘を描いた映画だ。
ストーリーの詳細はちょっと調べれば分かるので割愛するが、この映画の最大の「売り」は、CGに頼ることなく厳しくも美しい立山連峰の雄大な自然を映し出すことにあった。
確かにスクリーンに映し出される映像は美しい。
しかし、当たり前のことだが、実際の立山連峰や剣岳の雄大な自然を目の当たりにした者にとってはやはりそれだけでは物足りない。
吹雪のシーンなどもリアリティに欠けているし、ライバルの日本山岳会との関係もどこか話ができすぎていて感情移入できない。
面子ばかり重んじる当時の陸軍参謀本部の愚かさだけは伝わってきたが、映画としてはそれほど面白くはなかった。
というのも、実はこの物語を本当にドキュメントした記録映像を私は一度観ていたからである。
2004年夏、私はひと夏で2回剣岳に登頂した。
1回目は室堂から剣沢経由の往復。
2回目は馬場島から室堂へ抜けるコースで。
1回目の登山を終えた後、立山博物館に立ち寄った。
http://www.pref.toyama.jp/branches/3043/3043.htm
この博物館は、映画でも描かれていた立山信仰の歴史などを詳しく紹介していて大変面白いので、剣岳登頂のおりにはぜひ立ち寄るのがお奨め。
当時この博物館で展示されていたのが、まさに日本最初の剣岳測量に関する本物の資料であり、実際の登頂や測量の様子を写した白黒フィルムによる記録映像だった。
特にこの白黒フィルムの映像は私にとって衝撃的であった。
一言で言えばその映像には、現代人が完全に喪失してしまったとてつもない身体能力が見事に映し出されていたのである。
測量に関わった人々は何十キロもの木材を山に運び、現場でそれを加工し、見事な山小屋を作っていた。
どんな過酷な状況でも、生活に必要なものは何から何まで自力で賄える逞しさ、そしてそれを可能にする技術や身体的能力が備わっていたのである。
まさに文明により人間は進歩したのか、それとも退化したのか、その答えをはっきり突きつけられたような衝撃を受けたのだ。
映画『劔岳 点の記』でも、監督の木村大作は俳優やスタッフに対して、実際の剣岳登山と同じ厳しい境遇を当たり前のものとして撮影に参加するように要請したらしい。
とは言え、現代人たる彼らが示す身体性はとても脆弱で、あの白黒フィルムから感じた圧倒的な存在感はなかった。
それにしても、あの白黒フィルムは一体今どこにあるのだろう?
ぜひ多くの人が観るだけの価値はあると思うのだが・・・
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