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『武道の力―人間は80歳まで強くなれる!』(時津賢児) デカルト的心身二元論をこえられるか

2010年5月20日 16:07 | コメント(0) | トラックバック(0)

 副題に「80歳まで強くなれる」とあるが、本書が意図する「強くなる」の意味は単純ではない。

 著者は大学卒業後に単身パリへ渡り、空手の修行に明け暮れ、そのなかで武道や日本文化について探究してきた。

 現在はパリ大学ソルボンヌ文化人類学研究所の研究員であり、独自の武道「自生道」を切り拓いている。

 本書のプロローグにはこう記されている。

 私は現代における人類の最大のテーマは、どのようにして人間が質的に向上できるかだと思う。

 100年後といわず50年後の世界情勢を考えてみられたい。自然環境、国際政治環境といったものが改善されるためには、人間の意識の変化が必要だと思う。

 大げさに考える必要はない。自分の身体という一番身近なものを見直し、人間が身体で生きている意味を考えてみることが、意識変化の第一歩だ。

 身体を動かすことによって意識を訓練し、訓練された意識によって身体を導き訓練していく。武道にはそうした方法が整然と眠っている。

 武道の現代的および未来的な意義は、それを一般性のある方法として活用することにあるのではなかろうか?

 著者はまた、こうも述べている。

 身体には人間が大脳皮質で考え得ることをはるかに越えた英知、すなわち膨大な<情報>の元が眠っている。

 だから、どんなに頭のよい人間でも、その人の身体の方がずっと頭がいいのだという言い方もできる。

 まさに、内田樹が『私の身体は頭がいい』で論じていることと同様の内容を突き出しているわけだ。

 人類はとりわけ産業革命以降、欲求を身体の外側に延長させてきた。
 つまり客体としての自然、物質的富によって欲求の充足をはかろうとしてきたわけだ。

 しかし環境破壊や資源・エネルギー危機などに明らかなように、こうした悪無限的な物質的欲求の延長線上に未来を展望することは不可能である。

 あくことなき探究心や健全な欲求を否定することなく、人間が進歩するためには、身体の外側にではなく、内側にこそ欲求を向けるべきなのだ。

 その意味で、著者の提起は興味深い。

 欧米文化における根深い諸問題の多くは、精神と身体を分離する考え方からきているといってよい。
 
 武道の思想と方法は、欧米文化の盲点に光を当てることになる。

 デカルト的な心身二元論をこえる新しい文化。
 実はそれは、東洋思想のなかに脈々と受け継がれ、武道などの日本の伝統的文化のなかで育まれてきた。

 21世紀に日本が世界に発信できる新しい価値は、まさにこうした内容にこそあるのではないだろうか。

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