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世界遺産白神山地ツアー(2)目屋マタギは冬眠明け1週間前後の熊しか狩猟しない

2009年8月28日 08:51 | コメント(0) | トラックバック(0)

 バッファ・ゾーンの縁を尾根沿いに歩き始めてから、約20分ほどで高倉森山頂に着いた。山頂と言っても道の脇にちょっとした指標があるだけだ。注意しなければ、気づかずに通り過ぎてしまう。

 少し休憩して、ここからは稜線上を進む。晴れていれば白神山系が見渡せる場所をいくつか通り過ぎるが、辺り一面、白い霧に覆われて何も見えない。

siragami6.JPG 熊の爪あとが残っているブナの樹の前で、工藤さんが熊狩りについて語る。

 目屋マタギは、冬眠明け1週間前後の熊しか狩猟しないという。その理由は3つあり、1つは貴重品である熊胆が、冬眠中何も食べていない状態のときが一番大きいこと。2つには冬眠中に冬毛に生え変わった熊の毛の状態も一番良いこと。3つには同じく冬眠中に動いていない熊の肉が、一番柔らかくて美味しいからだという。

 「冬眠明けの4月20日から5月連休ぐらいまでの白神は、普通の人が入ることができない厳しい条件です。そのなかで山に入り、熊と勝負することができることに、私たちは誇りを持っているのです」

 工藤さんは目を輝かす。マタギであった工藤さんの父親は、朝日本海側の村を出て、白神山地の道無き道を通って、夕方には西目屋村に着いていたという。白神ラインはオフロード車で飛ばしても2時間半かかるから驚くべき脚力だ。
 60歳を超えた工藤さんも、60キロ以上の熊の肉を背負って、1日中山中を歩くことができるという。

 歩く道沿いにはエゾニュウやツクバネソウなどの植物や、冬場のサルの食べ物となるコシアブラや、香りが良く楊枝の材料にもなるオオバクロモジなどが生えている。
 工藤さんが地面に屈みこんで、白っぽい太いエノキのようなものを指差した。

 「これが銀竜草、別名ユウレイソウと言われているものです。葉緑素がなく、つい最近まではブナがもたらす腐葉土の栄養分のみで生きていると言われてきました。しかし最新の研究で根を張る際に周辺にバクテリアが集まり、分泌物でそれを殺して食べていることが判ってきました。ガイドも常に勉強していなきゃいけないから大変なんです」

siragami10.JPG

参加者はいっせいに手に持ったデジカメで銀竜草を撮影する。
siragami11.JPG マザーツリーよりも大きい、周囲5・65メートルもあるブナの巨木もあった。

siragami12.JPG 40分ほど歩いて午前11時半に、木のベンチがある通称「展望台」に到着。ここで昼食休憩。参加者がコンビニで買ったおにぎりや菓子パンを食べているなか、ガイドの小池さんがホオノキの葉で包んだおにぎりを皆に見せる。

 「殺菌作用もあり、これなら山に捨てていってもダメージがありません。どうです、一つ買いませんか?」と言う冗談に、「本当に美味しそうですね」と皆ホオノキのおにぎりに見とれる。

 15分ほどで昼食休憩を終え、沢沿いの下りのルートとなる。所々ロープも張られている急な下りが続くが、ぬかるんだ道に足を滑らせる参加者もいるなか、工藤さんや小池さんは何事もないように黙々と下っていく。

siragami9.JPG 途中の休憩時間、工藤さんは「暗門の滝」について解説をしてくれた。

 「普通、滝は下手から、1、2、3と名付けられますが、暗門の滝の場合、上から1、2、3と呼ばれています。これは、江戸後期の紀行家・随筆家であった菅江真澄さんがこの地を訪れた際に、山側から滝を見て名付けたことによるそうです。菅江さんは旅日記『菅江真澄遊覧記』で、『東北に天下の瀑布あり』と滝を紹介しました。ところが、当時津軽藩は全国ブランドの薬を製造するために、滝の上でケシの栽培をしていたのです。全国から人が滝を見にきたら困る。そこでもともとの『安門の滝』という名前を、わざわざイメージの悪い『暗門の滝』に変更したのです」

 当時のマタギたちは、山に入る人々を監視し、滝の上のケシ畑を守る役割も引き受けていたそうだ。

 急な下りを40分ほど続けると道は谷の中へと入った。この辺りから道の左手のブナの原生林は終わり、再び二次林となる。
 同時に、トチノキ、サワグルミ、ミズナラが多くなってくる。太いツルが巻きついたミズナラの巨木は圧巻だ。

 工藤さんは「あれがキハダだよ。幹が黄色くて染色にも使えるし、煎じて飲めば肝臓にもいいんだよ」と言いながら、ザックからタテナタを取り出して1本のキハダに近づいた。根の部分に少しだけタテナタを入れて、切り取って持ってきてくれる。

 樹木とは思えない明るい黄色で、これなら染色にも十分に利用できると納得する。ためしに少しかじってみた参加者の一人が、「うぇーっ、すごく苦い」と悲鳴を上げるが、「これで俺の肝臓も安心だ」と顔をしかめながらかじっている。

 それにしても、たしかに白神山地は恵みの宝庫だ。

 「冬は炭焼き、春先には熊狩り、5、6月にはゼンマイ、ワラビ、ウド、フキなどの山菜採集、夏には川魚を獲り、秋にはナメコ、マイタケをはじめとするキノコ類の採集ができる。昔は1日に5羽から10羽も野兎が獲れたし、日本カモシカも食べた。東北地方が飢饉になっても、私の集落では決して食べ物に困ることはなかった」

 工藤さんが語るように、それほどに豊かな恵みをブナの森は育んできたのだ。

siragami8.JPG 世界遺産に登録された地域では、この山で長年暮らしてきた人々の生活の権利すら規制され、他方で世界遺産登録によって観光客が増加し、オーバーユースによる新たな自然破壊も問題となりつつある。

 白神山地から流れる赤石川の水は、赤石ダムでせき止められ、取水口から追良瀬川を経て笹内川へ、そして十二湖にある発電所へ放流される。白神山地の真下を3本のトンネルが走っているのだ。

 今西目屋村では、青森県下で最大規模の津軽ダムの建設が進められているのだと言う。

 コースも終わりに近づいた頃に、熊にかじられた看板が現れた。自分のテリトリーへ侵入してくる人間たちへの熊の抗議なのだろうか。

siragami13.JPG 午後1時10分には暗門大橋のたもとに全員到着。最後まで雨は降り止まず、終始霧につつまれたブナの森の中の行程だったが、工藤さんや小池さんの解説により、白神山地が持つ豊かな生態系の一端を垣間見ることができた。
 

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渡瀬義孝 2008年洞爺湖サミットの開催に合わせ自転車で東京~洞爺湖~札幌1500キロを走破したツーリング洞爺湖に参加。持続可能な未来へ向けエコロジーでリベラルなライフスタイルを! yoshitaka@ihope.jp

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