Outdoor

世界遺産白神山地ツアー(1)白神マタギ工藤光治さんの案内でブナの生い茂る高倉森自然観察歩道を歩く

2009年8月27日 10:34 | コメント(0) | トラックバック(0)

 2004年7月16日、世界遺産登録地域白神山地の青森側、高倉森自然観察歩道を訪れた。

 純林としては世界最大面積を誇るブナの森の探索は、実に興味深いものだった。

 午前8時、西目屋村暗門のアクアグリーンビレッジANMONで、観察会のガイドをお願いした「白神マタギ舎」代表の工藤光治さん、弘前大学探検部時代から白神山地を歩き回っている小池幸雄さんとドッキング。

 西目屋村は通称「目屋」と呼ばれるが、それはアイヌ語の名残り。

 作業服に長靴姿で現れた工藤さんは、日に焼けた顔、がっしりと引き締まった体格、しっかりとした足取りなどからは、とても60歳を超えているとは思えない。
 手には自分で作った白いホオノキの杖を持ち、さすがという風貌。

siragami1.JPG

 チャーターしたマイクロバスに乗り込んでスタート地点の津軽峠へ向かう。
 暗門には、一般観光客向けに「暗門の滝」までの往復3時間の「暗門の滝歩道」が整備されている。

 私たちは津軽峠から世界遺産地域のバッファ・ゾーンの縁添いに歩き、標高829・1メートルの高倉森の山頂付近を経て、暗門大橋に下る約5・6キロのコースを選択。

 津軽峠までは、未舗装の県道(通称白神ライン)約9キロを20分ほどバスで移動。
 西目屋村から日本海側の岩崎町を結ぶ白神ラインは、1973年に弘西林道として開通した。

 この林道開通で原生林が次々と伐採され、ハゲ山が広がり、それまで豊かな水量を誇った赤石川はどんどん減水していった。
 地元の人々にとって、この時の苦い経験が、後の青秋林道(青森県西目屋村と秋田県八森町を結ぶ峰越え林道)建設反対運動につながったそうだ。

 当時青森県が行おうとしていた白神山地保安林解除に対して、わずか1カ月余りの期間に13202通もの「水源かん養保安林解除に係る異議意見書」が集められた。その中には地元赤石川流域に住む有権者の半数近い1024通が含まれていた。

 白神ラインをゆっくりと進むバスの中で、工藤さんは自分が仕留めた熊の写真を見せながら語った。

 「今日みなさんが歩く高倉森自然観察歩道は、私がコース設定したところです。あいにくの天気ですが、白神の自然の豊かさをぜひ実感してください」

 20分ほどして津軽峠に到着。
 そこから「ブナ巨木ふれあいの径」に入って徒歩約5分。ブナの巨木が現れた。

siragami2.JPG 「マザーツリー」の看板が掲げられ、「推定樹齢400年、幹周り465cm、胸高直径148cm、樹高30m」と記されている。

 友人の一人が、「マザーツリーという名前ですが、ネイティブ・アメリカンの木に対する信仰と同じように、マタギの人たちにもそういった信仰があったのですか?」と質問。

 工藤さんは笑いながら答えてくれた。

 「マタギにはそういう信仰はありませんよ。ヨーロッパではブナのことを『森の母』と呼んでいたそうですが、どこかの写真家がこの木を『マザーツリー』と名付けただけです。私たちにとってこの程度の大きさの木は当たり前なんです」

  来た道を戻り、高倉森自然観察歩道からブナの森に分け入っていく。降り続いている雨も、森の中に入って歩き出すとほとんど落ちてこない。生い茂るブナの葉が雨を受け止めているのだ。

siragami3.JPG 森の中には白い霧がたちこめて幻想的な風景が広がっていく。登山道は所々腐葉土がぬかるみ、スニーカーやジョギングシューズを履いてきた参加者はすぐに足元がどろどろになる。工藤さんや小池さんが長靴を履いてきた理由が良くわかる。

 津軽峠から高倉森自然観察歩道に入り約1時間半。工藤さんは「これから先の道の右側が世界遺産登録地域となります。左側が未登録地域だけど、別に同じです。恣意的に線引きしているだけだから」。

 確かに道の両側のブナ林には何も変わりがない。ここまで歩いてきたブナ林は伐採後に復活した二次林だという。この先は人が手を入れたことのないブナの原生林だ。

 これまでよりブナの樹は太くなり、樹と樹の間隔は広がり、森はさらに深くなっていく。白い霧が幻想的だ。
siragami7.JPG 霧がブナの葉や枝に付着し水滴となる樹雨が、白神山地の年間降雨量の20%以上を占めているのだという。

 白神山地のなかで1993年に世界遺産に登録された地域は、世界最大級のブナの原生林だ。約1万6971ヘクタールある。

siragami5.JPG 白神山地のほとんどは2400万~510万年前の堆積岩で、かつては海中だった。800万年前に隆起が始まり、縄文初期の、今から8000~9000年前にブナ林が成立した。現在も年間1ミリ以上隆起が続いており、標高が低いにも関わらず山容は険しく、激しい崩壊を繰り返している。

 工藤さんのようなマタギの人たちですら、毎年変化する山の様子をすべて把握するのは困難だという。
 崩壊して森が開けた場所には日光が当たり、ブナの若木が育つ条件が整うことで、世代交代の進む勢いが早い。ブナの純林の割合が極めて高いことも白神山地の特徴だ。

 白神山地には、464種類の植物が生育している。高山植物は53種類で、うち24種が白神山地を北限とするものだ。

siragami4.JPG その他に昆虫は2300種、鳥類は73種、は虫類・両生類14種、ほ乳類は大型のツキノワグマ、ニホンカモシカから、世界最小のほ乳類といわれるトガリネズミなど約20種が生息している。

 工藤さんによれば、マタギの人々は代々125種類もの植物や樹木を、食用や薬草、染料などに利用してきたという。

 「『前人未踏の原生林』とか言うけれども、私たちは1000年も前からこの山から様々な恵みを受けてきました。誰も人が入ったことがないと思われるぐらい、環境にダメージを与えない暮らしをしてきたのです。

 ところが世界遺産に登録されたことで、長年この地で暮らしてきた私たちですら、この山に自由に入り狩猟や採取をすることが許されなくなりました。

 他の先進国では、世界遺産に登録されたとしても、その地に暮らしてきた人々がそれまで通りの生活を続ける権利を認めたにも関わらずです。そういう自然保護運動とはいかがなものでしょうか?」

 参加者からは「登山や観光目的で入山する人を規制するのは仕方ないかもしれないが、わずか20数名しか残っていないマタギの人たちの入山や、狩猟・採取まで規制するのはおかしいのではないか」という意見が出た。

 

  • Yahoo!ブックマークに登録
  • Google Bookmarksに登録
  • はてなブックマークに登録
  • del.icio.usに登録
  • livedoorクリップに登録
  • Buzzurl(バザール)に登録

関連記事

北海道支笏湖を望む樽前山にお手軽ハイキング 溶岩ドームからは火山ガスが噴き出していた
 2005年10月、札幌で所要があり、その後友人と一緒に支笏湖そばの樽前山にハイ...
みたらい渓谷から大峰八経ケ岳へ 弥山小屋宿泊のお気軽ハイキング
 2005年10月、大阪在住の際、友人たちと登った大峰八経ケ岳。 紅葉前だったが...
水のウォーク1日目(2)錦川の清流を壊す平瀬ダム建設計画 八ッ場ダム同様本体工事を中止し多様な治水対策を
 今回の水のウォークの主旨の一つは、錦川上流に計画されている平瀬ダムの建設中止を...
水のウォーク1日目(1)錦川清流線に乗り錦町へ 川には錦鯉が泳いでいた
 水のウォーク1日目、地元の人たちは錦川上流で森林保全活動に取り組んだが、私は自...
森~川~海 いのちと平和つなげよう!水のウォーク カヌーと自転車のコラボで山口県錦川を下りスナメリが泳ぐ瀬戸内上関へ 
 美しい清流で知られる山口県東部の錦川。 今この川の上流にもダム建設問題が持ち上...
世界遺産白神山地ツアー(2)目屋マタギは冬眠明け1週間前後の熊しか狩猟しない
 バッファ・ゾーンの縁を尾根沿いに歩き始めてから、約20分ほどで高倉森山頂に着い...
世界遺産白神山地ツアー(1)白神マタギ工藤光治さんの案内でブナの生い茂る高倉森自然観察歩道を歩く
 2004年7月16日、世界遺産登録地域白神山地の青森側、高倉森自然観察歩道を訪...
西湖から鬼ケ岳 目の前に富士山が迫るお薦めハイキングコース
 関東地方は梅雨明け。 夏山シーズンにお薦めのハイキングコースを紹介。  200...
黒百合ヒュッテから南アルプス天狗岳 100名山踏破を目指すオーストラリア人青年はすごかった
 2007年9月25日~26日、南アルプス天狗岳に登った。  1日目はまず渋の湯...
沖縄慶良間諸島・渡嘉敷島 コバルトブルーの海で体験ダイビング
 2006年4月、所要で沖縄を訪れた際に渡嘉敷島を訪れた。 どうしてもダイビング...

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.ihope.jp/mt/mt-tb.cgi/326

コメントする

月別アーカイブ

プロフィール

渡瀬義孝 2008年洞爺湖サミットの開催に合わせ自転車で東京~洞爺湖~札幌1500キロを走破したツーリング洞爺湖に参加。持続可能な未来へ向けエコロジーでリベラルなライフスタイルを! yoshitaka@ihope.jp

このサイトを購読する

RSS登録

  • Add to Googleに登録
  • はてなRSSに登録
  • lvedoorリーダーに登録
Loading


最近のフォト

  • Actio 2011年12月号 特集「原発再稼働は許されない」
  • 2011年11月号 特集「広がる放射能汚染にどう向き合うか」
  • Actio10月号 特集「福島で何が起きているのか」
  • Actio 2011年9月号 特集「終わらない原発震災」
  • 2011年8月号 特集「原発事故は最悪の公害」
  • Actio 2011年7月号 特集「子どもたちを放射能から守る」
  • Actio 2011年6月号 特集「原発のない社会は可能」
  • Actio 2011年5月号特集「原発はもういらない」
  • Actio 2011年4月号 特集「食の未来を創る」
  • Actio2011年3月号 特集「エネルギーは地産地消へ」

ウェブページナビ