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社会主義経済計算論争(4)インセンティブを無視した経済は可能か?

2009年8月 7日 08:28 | コメント(0) | トラックバック(0)

 ハイエクは『問題の性質とその歴史』において、社会主義で問題となるであろう次のような点も指摘した。

 「たとえ、生産資源の共有が、個々の資源単位が使用されるべき目的とその使用の方法とを競争的に決定することと、両立しうるとしても、われわれはなお、資源の一定量を社会のために処分する機能をもつのは誰であるかの問題、あるいはどれだけの資源が種々なる『企業家』に任されるべきかの問題は、一個の中央当局によって決定されるべきであろうと仮定しなければならない。これは共有の観念と両立しうる最低の仮定であり、共同体をして生産の物的手段から生まれる所得に対する支配権をなお留保せしめうるための最小限度の中央指導であるように思われる」

 つまりどれだけ分権化され、機能的に組織されようと、そしてまた市場や貨幣経済を導入しようとも、社会主義である以上は必ず経営上の権力や権限が行政的に決定される余地が残るというわけだ。

 だとすればその場合、経済的な合理性を追求するインセンティブが充分に形成されうるのか? これがハイエクの突き出した問題である。

 ハイエクは生産手段の私的所有に基づく競争的な市場の役割を、単に価値評価に限定しない。
 市場で生き残るための強力なインセンティブを経済主体に促し、そのことによっていち早く優れた生産技術が伝播したり、あるいは収益性のある生産部門がどこにあるのかを社会的に伝達させる等、知識の普及にとって不可欠のものとして競争的な市場を評価する。

 この問題の重大さについては、ミーゼスもこう述べていた。

 「社会主義企業における責任と創意との問題は、経済計算の問題と密接に関連している。今や、私的企業の成功がそれに依存したところの自由創意と個人的責任との喪失が社会主義組織に対する最も重大な脅威であることは、一般に認められている」

 ブルツクスもまた指摘していた。

 「革命以来のわれわれの経験はすでに、労働の報酬を労働の結果から切り離そうという共産主義の試みは、労働者の活力を必ず麻痺させるに違いないということを示しつつある―したがって、今日、わが共和国は、賃金を供与された用役にできるだけ厳密に比例させようとしているのである」

 弱肉強食の市場原理主義を肯定する必要はないが、だからと言って市場を悪の権化のように考え、社会主義の下での計画経済になればすべての矛盾は解決するなどと夢想するのも間違っている。

 中国が市場経済を導入せざるを得なかったのは、結局のところ「社会主義経済計算論争」で突き出された問題について、社会主義の側がなんらの回答を用意できなかったことを示唆している。

 同時にまた、共産党一党独裁を続けながら市場を導入する現在の中国で共産党幹部の腐敗が後を絶たないことに端的に示されているように、行政的な、つまり恣意的な裁量権によって社会的資源配分が決定される場合、「誰がどのような権限でそれを行うのか」との問題が永遠についてまわる。

 いずれにせよ、「社会主義経済計算論争」はこうした歴史的パースペクティブで現在もなお意味を持っている。

 現実の市場経済を全否定するのではなく、競争的市場の行き過ぎについては社会的に規制し、環境税などの導入を通じて社会的費用を内部化し、市場でのインセンティブを活かしながら社会的公正を実現する方向を摸索していくしかないのだ。

 

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