Politics

『ザ・フェデラリスト』が憲法制定会議で主張した強力な連邦政府は世界最強の軍隊を持つに至った

2009年7月31日 16:38 | コメント(0) | トラックバック(0)

 民衆の抵抗権、革命権を重視する立場から、アメリカの独立時には、民兵制か常備軍かを巡る議論が活発に行われた。

 国家の自衛権や常備軍の是非を論議するならば、それが民主主義社会にとって本当に必要なものなのか? 必要だとすれば、それが民衆抑圧に転化しない保障措置をどうやって講じるのかをきちんと論議すべきだ。

 少なくとも建国時のアメリカにおいては、こうした議論がかなり突っ込んで行われたのである。

 例えばヴァジニア権利章典では次のように述べている。

 「武器の訓練をうけた人民の団体よりなる規律正しい民兵は、自由な国家の適当にして安全なる護りである。平時における常備軍は、自由にとり危険なものとして避けなければならない。いかなる場合においても、軍隊は文権に厳格に服従し、その支配をうけなければならない」

 常備軍は政治権力によって民衆抑圧に使われる危険性が高く、主権者たる民衆自身による組織的統制のとれた民兵制度こそが民主主義にとってふさわしいと考えていたわけだ。

 しかしながら、アメリカ独立時のこうした考え方は、独立戦争を経て、1788年の連邦憲法制定までの過程で徐々に変化していく。

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 1787年に憲法制定会議によって提出されたアメリカ合衆国憲法案は、中央集権的な統一政府をつくろうとする専制的な傾向が強いと、各州からの反発を浴びた。

 これに対する反論としてまとめられ、合衆国憲法制定に大きく寄与したのが『ザ・フェデラリスト』だ。
 ここでの論議を踏まえておくことは、世界最大の軍事大国と化した今日のアメリカの捉え返しのためにも必要である。

 『ザ・フェデラリスト』を執筆したとされるジョン・ジェイ、ジェイムズ・マディソン、アレグザンダー・ハミルトンは、政治的、思想的立場を完全に一致させていたわけではない。

 しかし、少なくともアメリカを独立した各州からなんる邦連合にとどめてはならず、中央政府を持つ連邦とすべきとの点では一致していた。
 『ザ・フェデラリスト』では、その根拠を主要には安全保障の側面から展開した。

 第3篇は「戦争の危険性と連邦」について、そして第4篇では「外敵に対する安全保障と連邦」についてジェイは次のように論じた。

 「人間性にとって何とも不名誉なこととはいえ、一般に国家は、戦争によって何事か得るところがあると予期できる時には、いつでも戦争に訴えるものであることは、これまた真実である」

 「したがって、アメリカ人は、戦争を招くことなく、戦争を抑制するような状態に、自らを長くおいておくためには、連邦と一つのよき全国的政府とが必要であると、賢明にも考えているわけである」

 こうした安全保障面からの連邦政府必要論を引き継ぎ、第8編ではハミルトンが「内紛の危険性と常備軍」と題して語る。

 もしアメリカが連邦のもとに団結できなければ、国内的にも各州は安易な相互侵略を防止するためにも常備軍を持つことになるだろう。そうなれば州相互の軍拡が加速してしまう。これを避けるためにも、連邦政府が必要である。

 さらにハミルトンは、第24編「平時における常備軍の当否」、第25編「共同防衛の必要と性格」のなかで、外国の侵略に備えるためにも常備軍は必要であると主張している。
 興味深いのは、次の一節である。

 「おそらく、国の民兵こそ、国の自然な堡塁であって、常時国防に任じるものであるという意見が出てくることが予想される。しかし、この考えは事実上われわれの独立を失わしめかねなかったのである」

 「たしかに、さきの独立戦争にさいして、アメリカの民兵は数々の場合にその勇敢さを示すことによって、その名声に永遠の記念碑をうちたてたのであった。しかし、その最も勇敢なる民兵も、いかに彼らの努力が大きく、貴重なものであれ、祖国の自由は彼らの努力だけでは達成しえなかったことを、十分にわきまえている。

 戦争は、他のことがらと同様、勤勉によって、忍耐によって、時間によって、訓練によって、はじめて習得され、完成される一つの科学なのである」

 ハミルトン自身、常備軍制度に「市民的・政治的権利を脅かす危険性」を見て取ってはいたが、内紛や外国の侵略からの脅威に備えることの必要性も痛感していた。

 「より安全であらんがためには、自由を少しく犠牲にするという危険をもあえておかす」

 これがハミルトンの主張であり、同時に彼は中央集権的政府や常備軍制度が専制に陥らないために、権力の分散や相互監視、相互均衡などの三権分立の重要性を訴えた。

 イギリスからの独立をかちとったとは言え、当時世界はヨーロッパ列強による植民地争奪の只中にあり、アメリカを取り巻く軍事的状況は予断を許さぬものであった。

 このような状況下において、建国時のアメリカが民主主義的な理念以上に軍事力学主義的な発想に傾いていったことは、やむを得なかったと言えるだろう。

 少なくとも、その後孤立主義や善隣外交を基本とした外交政策をとり続けていた限りにおいては、アメリカは常備軍制度が民主主義にもたらす危険性に対していくらかでも自覚的でありえた。

 しかし、20世紀の2度の世界大戦を通して、そしてその後の冷戦構造のなかで、アメリカが抱える常備軍は世界最強となり、軍産複合体はアメリカの対外政策にも強い影響力を行使するまでになっている。

 ジェイが述べた「一般に国家は、戦争によって何事か得るところがあると予期できる時には、いつでも戦争に訴えるものであることは、これまた真実である」との言葉を、果たして人類は変えることができるのだろうか。

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