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西田哲学と「近代の超克」論(3)戦争を肯定した世界的自覚の論理だが

2009年7月16日 16:06 | コメント(0) | トラックバック(0)

 「純粋経験」を基本的概念としながら、西田は第二編では「実在」、第三編で「善」について、そして第四編では「宗教」について論を進めていく。

 第二編ではまず、「実在」についてこう語る。

 「実在とはただ我々の意識現象即ち直接経験の事実あるのみである」

 「普通には主観客観を別々に独立しうる実在であるかのように思い、この二者の作用に由りて意識現象を生ずるように考えている。従って、精神と物体との両実在があると考えているが、これは凡て誤である。主観客観とは一の事実を考察する見方の相違である、精神物体の区別もこの見方より生ずるのであって、事実其者の区別でない」

 西田は明確に主客の二元的対立図式を批判する。
 それでは、この二項対立をいかに止揚するのか。

 「意識を離れて世界ありという考えより見れば、万物は個々独立に存在するものということができるかも知らぬが、意識現象が唯一の実在であるという考より見れば、宇宙万象の根柢には唯一の統一力あり、万物は同一の実在の発現したものといわねばならぬ」

 「今日の進化論において無機物、植物、動物、人間というように進化するというのは、実在が漸々その隠れたる本質を現実として現わし来るのであるということができる。精神の発展において始めて実在成立の根本的性質が現われてくるのである。ライプニッツのいったように発展evolution は内展involutionである」

 西田の実在なるものは、ヘーゲルの絶対精神と極めて近似していることが分かるだろう。
 実際に西田は次のように述べている。

 「ヘーゲルは何でも理性的なる者は実在であって、実在は必ず理性的なる者であるといった。この語は種々の反対をうけたにも拘らず、見方に由っては動かすべからざる真理である」

 さらに踏み込んで神についても語っている。

 「実在の根柢が直に神である、主観客観の区別を没し、精神と自然とを合一した者が神である」

 そして第三編の「善」では、まず人格を規定する。

 「我々の人格とは直に宇宙統一力の発動である。即ち物心の別を打破せる唯一実在が事情に応じ或る特殊なる形において現れたものである」

 そしてこの人格そのものを目的とする行為が善であり、ゆえに善行為とはより普遍的なものへの統一であると説く。
 その上で個人主義と利己主義の混同を戒め、個人主義と共同主義は一致するものだとも指摘。

 「人間が共同生活を営む処には必ず各人の意識を統一する社会的意識なる者がある。言語、風俗、習慣、制度、法律、宗教、文学等は凡てこの社会的意識の現象である」

 「社会的意識も(中略)一つの生きた実在と見ることができる」

 かかる実在の自己統一作用は、「今日の処では統一した共同的意識の最も偉大なる発現である」国家へ、そして人類社会の団結なるものへと収斂していくべきだと主張する。

 第四編「宗教」においては、これまでの叙述のすべてを神学的世界観としてまとめあげる。

 「統一的或者の自己発展というのが凡ての実在の形式であって、神とはかくの如き実在の統一者である」

 「かくの如き神性的精神の存在ということは単に哲学上の議論ではなくして、実地における心霊的経験の事実である。我々の意識の底には誰にもかかる精神が働いているのである(理性や良心はその声である)」

 ひたすら打坐に励み梵我一如の境地に達し、ハイデッガーの語った「存在の呼び声」に応えること。
 これが『善の研究』において西田が訴えた近代の超克の方途だ。

 西田はこの3年後の1936年、『善の研究』における思想的立場を乗り越えたと語っている。

 「純粋経験の立場は『自覚における直観と反省』に至って、フィヒテの事行の立場を介して絶対意志の立場に進み、更に『働くものから見るものへ』の後半において、ギリシャ哲学を介し、一転して『場所』の考に至った。そこに私は私の考を論理化する端緒を得たと思う。『場所』の考は『弁証法的一般者』として具体化せられ、『弁証法的一般者』の立場は『行為的直観』の立場として直接化せられた。この書において直接経験の世界とか純粋経験の世界とかいったものは、今は歴史的実在の世界と考えるようになった。行為的直観の世界、ポイエシスの世界こそ真に純粋経験の世界であるのである」

 さて、こうした西田の思想的営為は、現実世界においていかなる意味を持ったのか?
 東条内閣の「大東亜共栄圏宣言」の参考資料となったと言われる『世界新秩序の原理』で西田はこう述べている。

 「今日の世界は、私は世界的自覚の時代と考える」

 その上で一つの世界的世界を形成するためには、まずは各国家民族が「それぞれの地域伝統に従つて、先ず一つの特殊的世界を構成すること」(要するに大東亜共栄圏のこと)だと主張した。
 ここでもヘーゲル哲学の「普遍―特殊―個別」のトリアーデを引き、個別性は特殊性に媒介されてはじめて普遍性へと至ると語ることで、事実上大東亜共栄圏構想を肯定した。

 さらにこんなことまで述べた。

 「我国の皇室は単に一つの民族的国家の中心と云ふだけではない。我国の皇道には、八紘為宇の世界形成の原理が含まれて居るのである」

 これでは戦後、西田哲学がまともに再検討されなかったのも故なしとは言えない。
 しかし、産湯とともに赤子を流してはならない。
 西田哲学の突き出した問題意識を、今日的にどう継承するのか?

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