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映画『アレクセイと泉』(本橋成一監督作品)チェルノブィリ原発事故で汚染された大地に生きる心優しき人々
村に残ると言い張った彼らを説得するために、医師たちは周辺の土壌などを分析し、放射能汚染のデータを示そうとした。
確かに、森や畑は汚染されていた。
しかし、こんこんと湧き出る村の泉の水からは、まったく放射能が検出されなかった。
力仕事もままならない老人だけで自給自足の生活を送ることは困難だ。
老人たちの生活を手助けする優しい青年アレクセイと生命の源である泉があればこそ、老人たちは住み慣れた村に暮らし続けることができる。
監督の本橋成一氏は、前作『ナージャの村』に続いて、再びチェルノブィリの悲劇のなかでも、大地を踏みしめて生き続ける人々の姿を描いている。
『ナージャの村』は、JCO臨界事故などで高まる原子力への不安のなか、全国180ヶ所で自主上映され約十万人の人々が足を運んだ。
『アレクセイと泉』では、坂本龍一が音楽を担当。
映画としての完成度はさらに高まった。
描かれている美しい自然とそのなかでの人々の生活は、現代文明のなかで生きる私たちの多くが失ってしまったものだ。
深い森、風そよぐ緑の草原、美しい夕日、澄んだ水の流れは、この村が高いレベルの放射能に汚染されていることを忘れさせてしまう。
それは逆説的に、目にも見えず、匂いもしない放射能の恐怖を静かに物語っている。
家族の絆、村のコミュニティーのなかで、人々は助け合いながら生きている。
圧巻だったのは、70歳を超えた老人たちが、泉の囲いを造り直すために、森から木を切り出し、斧一本で見事なまでに加工していく様子だ。
芸術的とも言えるその作業を、何のことなくこなしていく老人たち。
見事に出来上がった泉の囲いには、彼らが美しくも厳しい自然のなかで生き抜いてきた歴史が刻まれていた。
この映画で描かれているものは、核の恐怖ではない。
核に汚染された大地にもかかわらず、ゆったりとした時間のなかを自然と共に生きる人々の姿はとても幸福に見える。
J.S.ミルが述べたステーショナリー・ステート(静止状態)とはこういう生活のことなのかもしれないとも思う。
『ナージャの村』も同様だが、チェルノブィリ事故という現代文明の負の遺産のなかで暮らす人々のなかに、生産力主義に象徴される現代文明が失ってしまったものを見出していく本橋の視点は興味深い。
日本でもしチェルノブィリ級の原発事故が起きたら、アスファルトとコンクリートで固めた大地からは何も得ることができない。
私たちには何が残るだろう?
『アレクセイと泉』はこうした問いを投げかけている。
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