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『機長のマネジメント』が描くクルー・リソース・マネジメント(3)インターヒューマンスキルが鍵をにぎる
航空の世界では「クルー・コンセプト」の概念が極めて重視される。
「個々のパフォーマンスではなく、コックピット内のマシンとクルーすべての組み合わせから生まれるパフォーマンス(トータル・パフォーマンス)を中心にして考える」
「機長がいかに優れた技量の持ち主であったとしても、他のクルーの技量をうまく発揮させることができなかったり、あるいは活用することができなかったら、フライト全体のパフォーマンスはその機長一人分のパフォーマンスを超えることはない」
言うまでもなくこのコンセプトの前提は、個々のクルーメンバーには「クルーメンバーとして必要十分な『基本的技能と知識』が備わっている」ことだ。
いくらクルーのリソースを引き出そうにも、そもそも個人レベルでのリソースの蓄積がなければクルー・コンセプトは「絵に描いた餅」にしかならない。
その上で以下のアプローチをする。
「一人の人間の能力にはどうしても越えられない限界があり、その限界を乗り越えるための最も有効な手だての一つが、複数の人間によってチームを組むことなのです。そして、そのチームのトータル・パフォーマンスを高めるために、個人個人が一体どんな考え方をして、どんな行動をとればいいのか」
この際問題となる「マネジメント」は、「管理する」ことではない。
「チームとしての課題達成に向けたトータル・パフォーマンスを高めるためにはどう行動すればいいのかを、メンバー全員が地位や立場に関係なく考え、そしてそのように行動すること」
実際にクルー・コンセプトはどのように活かされるのか?
目的は、メンバー間の協力関係(コーディネーション)を強化することだが、その大前提にはまず、「ルール」が存在しなければならない。
飛行機のクルーの場合なら、航空保安規則や操作手順、業務要領などがそれに当る。
「規則や手順を正確に遵守できるように訓練されているということが、コーディネーションを考えるための大前提なのです。これによって相手が誰であろうとも、常に最低限のコーディネーションが確保されます」
こうした「ルール」の枠内で、人間と人間との調和をはかるための「ツール」がインターパーソナルスキル、あるいはインターヒューマンスキルと呼ばれる。
全日空のCRMでは、クルーコーディネーションスキルとして、リーダーシップ(LEADRESHIP)、リレーションシップ(RELATIONSHIP)、コミュニケーション(COMMUNICATION)の三つを考えている。
「チーム・マネジメントとは、チームメンバー同士の 言葉を通じ合い(クルー・コミュニケーション) 心を通じ合い(クルー・リレーションシップ) 意思を通じ合わせる(クルー・リーダーシップ) ことによりメンバー間に生じた相乗効果を利用して、チームのトータル・パフォーマンスをさらに高めていく」
これらのクルーコーディネーションスキルの最も基本となるのはコミュニケーションで、その大原則は「すべてのコミュニケーションは2ウェイでなければならない」ことだ。
古典的な心理学実験には「30分効果」と呼ばれるものがある。
情報を一方的に受信する立場の人間は30分が限界で、その後はモニタリング能力が低下することが明らかとなっている。
人並み以上にモニタリング能力を有したパイロットの研修でさえ、講義やビデオなどの一方的なものは30分が限界で、インプットの後には必ずアウトプットの時間を持つことが核心となる。
この点で典型的な悪い例は、会議で延々と説教や精神訓話、部下の悪口をしゃべり続け、現場の声には一切耳を傾けようとしない上司だろう。
私も嫌というほどこんな会議を体験した。
次々と人は去り、上司は「裸の王様」になっただけだ。
まさにコミュニケーションと表裏をなすものは、リレーションシップなのである。
人間は感情的な生き物であり、コミュニケーションの問題点の80~90%は<感情による葛藤>だ。
飛行機事故などの分析でも、機長と他のクルーとの感情的な葛藤によってコミュニケーションが阻害され、小さなミスが積み重なり、それが最終的に重大な事故に繋がっていった例は多々ある。
これをCAUSE RIVER(原因の川)と呼ぶが、適切なリレーションシップによって一つ一つの小さなミスを防いだり、あるいはそれを是正して、カタストロフィとなるようなCAUSE RIVERに拡大させないことが可能となる。
では、適切なリレーションシップとは何だろうか?
ここで求められる観点も、「操縦室内権威勾配」と同様、クルー間の心理的距離が離れすぎても、近づきすぎてもクルー・リソースを十分に活用できないことだ。
離れすぎている場合は、「非常に高圧的なリーダーのいるチームがあったとして、他のメンバー達がなんとか怒られまいとビクビクしている状況」となり、近づきすぎている場合は、「傍から見ればリーダーがチームメンバーと同じレベルで接しているように見える」かも知れないが、「安易な妥協、従属、あるいは干渉のし過ぎ等に陥り、その結果として各人のリソースが重複することによって、チーム機能はかえって有効に働かなくなってしまう」。
ほとんどの企業や組織の場合、後者の「近づきすぎ」の場合では現実的に仕事や職務が遂行できないから、実際に仕事が出来る強力なリーダーに引っ張ってもらう前者の「離れすぎ」の場合の方が圧倒的に多い。
だが、戦略的な人材の育成、リソース開発の点からすれば、前者の「離れすぎ」の弊害は必ず噴出する。
結局はCRMの核心は、お互いの人格を尊重した「より良い人間関係」という当たり前の結論に行き着く。
しかし仕事上での様々なストレスや心理的葛藤にさらされているなかで、「より良い人間関係」を保ち、チームプレーを高め上げていくことは、実は最も困難な作業なのだ。
現実の仕事や任務の遂行に当っては、様々なストレスがあり、仕事のやり方や結果に対する評価などを巡って常にコンフリクトを内包することは避けられない。
CRMの核心となる「より良い人間関係」とは、コンフリクトの無い状態を意味しているのではなく、むしろコンフリクトをいかにして克服していくのかという観点から不断に検証されるべきものだ。
全日空のCRM訓練教材では、「知的コンフリクトのためにヒント」として次の三点を挙げている。
第一に「自分に気づき、相手を尊重する」こと、第二には「『誰が正しいのか』ではなく『何が正しいのか』を考える」ように努力すること、そして第三には、「誤解を防ぐコミュニケーション」に心がけること。
さらに本書では、行動学者のリッカートが述べた、ある集団がコンフリクトを乗り越え、高度なコンセンサスに到達する三つの条件を紹介している。
①事実が入手可能で、しかもそれが適切に使用されること
②多数の解決策を提案することで、リーダーが集団を議題に集中するように援助すること
③参加者がお互いに他者を暖かく友好的であると感じていること
私の経験から言っても、この三つの条件のすべてが断たれた組織は、コンフリクトを乗り越えることができずに間違いなく滅びるだろう。
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