Review
映画『おくりびと』で描かれた日本的様式美 肉体と精神の二元論からは生まれない「納棺の儀」
第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した映画『おくりびと』。
遅ればせながら観たが、「死と生」や家族の絆を時にシリアスに、時にコミカルに描いた秀作だ。
今さらありふれた映評を記しても意味がないので、映画で描かれた「納棺の儀」について私なりに考えたことを記そう。
主人公の本木雅弘がまるで「天職」であるかのようにはまりこんでいく納棺士の世界。
遺体に丁寧に化粧までしてあの世に送り出す儀式を残された家族の目の前で行う。
その一挙手一投足は、故人を想う家族の愛情、惜別の念を凝縮するかのように、極めて日本的な様式美で溢れている。
私はこの映画を観ながら、かつて御巣鷹山に墜落した日航ジャンボ機の遺体検視に当たった検視官の言葉を思い出した。
詳しい記憶は定かではないが、十年以上前にラジオ番組かなにかで聞いた覚えがある。
ひょっとすると『墜落遺体―御巣鷹山の日航機123便』の著者飯塚訓氏の話だったかもしれない。
御巣鷹山墜落事故は航空機事故史上最悪、500名以上が犠牲となった。
遺体のほとんどは激しく山に激突した衝撃でバラバラになっていたそうだ。
その一つ一つを検証し、誰の遺体かを突きとめ、つなぎ合わせて少しでも回復する作業に不眠不休であたった検視官たち。
それは、せめて遺体の一部でも確認したいとの遺族の想いをかなえるためだった。
ところが、同じ遺族でも外国人の場合、残された遺体にはまったく執着しなかったと言う。
おそらくはキリスト教文化圏の人だろう。
彼らにとって、死の瞬間に魂は肉体と分離しており、遺体は抜け殻にすぎない。
一般にキリスト教の世界では、人間の魂と肉体を分けて考える傾向が強い。
中世では、魂は聖なるものに通じるが、肉体は堕落や悪に通じると極めてネガティブなものとして考えられた。
さらに人間の五感、肉体を通じての感覚は不確かなもので、それを通じて真理に到達することはできないと。
キリスト教だけでなく、近代合理主義哲学の祖と言われるデカルトもまた、物心二元論を説いた。
つまりヨーロッパ文化圏の人々にとって、『おくりびと』で描かれた「納棺の儀」は、強いカルチャー・ショックを与えたに違いないのだ。
職人的な技術、様式美を兼ね備えた納棺士が遺体と向き合い、魂と一体のものとしてあの世へ送り出す儀式は、まさに誇るべき日本文化そのものだ。
そしてその底流には、精神と肉体が不可分一体のものであるとする人間観、世界観がしっかりと横たわっている。
その日本的伝統文化をどう現代に活かすのかこそが問われている。
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