Review
ジャツク・モノー『偶然と必然』 現代生物学の名著が探る生命の深淵(2)
生物とは何だろうか?
そもそもこの宇宙のなかで生物はいかなる存在として規定すればよいのか?
現在のところ地球外生命体は発見されておらず、生物はこの地球上でのみ観察されている。
問題は、普段何気なく私たちが下す「これは生物、これは生物ではない」との判断の根拠だ。
例えば一定の条件のもとで変化し結晶構造(規則性や連続性)を持つにいたる岩石と、ごくミクロのレベルで細胞分裂を繰り返す細菌をどうやって区別するのか?
表面的な現象としては極めて似ているが、なぜ前者は生物ではなく、後者は生物だと判定できるのか?
この問いに答えることは意外に難しいとモノーは問題提起する。
生物は生物によって生み出されるから、生物は人工物である。
しかしモノーは、単にそのものの形や構造、幾何学的な考察からのみ自然物と人工物を区別、判別することは不可能だと指摘する。
例えば石英の結晶と蜜蜂の巣を、それが何であるのかの予備知識なしに形か構造などから自然物、人工物と区別することはできない。
そもそも人工的とはどのような意味なのか?
モノーはとりあえず、その物がなんらかの目的をより合理的に実現するために存在していることだと定義する。
生物であることは第1に、合目的性を持つことを意味する。
しかしこれだけでは、写真機と眼球は区別できない。
そこで生物として規定し得るための第2の条件として、その物体そのものの構造の形成が、外部からの諸力が加わった結果ではなく、あくまでもその物自体に内在する《形態発生上の》相互作用に負っていなければならないとする。
さらに第3には、極めて複雑なものを含むこの構造形成が、その物と同一のもう一つの物体からの対応する情報の不変的複製に負っているとする。
モノーは、第1の合目的性格を除いて、第2の自立的形態発生や、第3の複製の不変性という定義だけでは、生物と結晶構造とを本質的に区別することはできず、ただ複製される情報量の圧倒的な差異が存在するのだけだと指摘する。
ゆえに、結晶を含む他のすべての物体と生物とを区別するための条件は、以上の3点が同時に満たされる必要がある。
ただし、第1の条件である合目的性の概念自身が極めて曖昧だ。
モノーによれば、生物における最も根本的な合目的計画とは、種の特徴をなす不変性の内容を世代から世代へと伝達することだ。
そしてこの機能の驚嘆すべき正確さと、高度に複雑な作業を遂行する効率性は、およそ生物以外のものでは考えられないとモノーは具体例を挙げて語る。
「グルコース(葡萄糖)のような単純な糖と、生物を構成する化学的成分中の必要不可欠の諸元素(窒素・燐・硫黄等)を含んでいる無機塩など数ミリグラムが、水1ミリリットル中に溶けているとしよう。この培養基のなかに、たとえば大腸菌(長さ2ミクロン、重さ約5×10-13グラム)のようなバクテリアを一個植えつけるとしよう。36時間のあいだに、その溶液は数十億のバクテリアを含むようになるであろう」
彼はさらにこのプロセスの驚くべき内容を強調する。
「細胞は熱力学の法則を侵害してはいない。それどころではない。細胞は、これらの法則に服従するだけで甘んじてはいずに、ちょうど優秀な技師がやって見せるように、最大限の能率をもって企てを達成し、そしてすべての細胞の念願である二つの細胞になるという(F・ジャコブの言葉のように)《夢》を実現するために、熱力学の法則を利用さえしているのである」
こうしたモノーの指摘は、あらためて生物とは何か、その存在の不可思議さを問いかけるものだ。
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