Review

「第3の道」を模索した『ブレア時代のイギリス』(4)

2009年5月29日 11:10 | コメント(0) | トラックバック(0)

メリトクラシー(能力業績主義)

 ブレアは首相に就任する前の労働党大会で、こう強調した。

 「私にやりたいことは三つある。それは、教育、教育、教育だ」

 「結果の平等」ではなく、「機会の平等」を目指すニューレーバーの「社会的包摂」戦略にとって、働くために必要な知識や技術を、恵まれない環境に育った人に提供することこそが鍵となる。

 ブレア政権が誕生する以前、1997年までの18年間では、教育予算は1・4パーセントしか増えていなかった。
 これに対して労働党政権へ変わった8年間で、教育予算は年率4・4パーセント増加し、実質金額では1997年の380億ポンドから、2008年には2倍の760億ポンドにまで増えた。
 ニューレーバーが、いかに教育政策に力を入れているのかが分かる。

 しかし単に福祉予算を増大させたというだけでは、従来の福祉国家路線と変わりはない。
 ブレア政権は財政を圧迫せず、効率的に公共サービスを改善することを追求し、財源調達の面では、 PFI(Private Finance Initiative)やPPP(Pubic Private Partnership) などの新しい手法を採用した。

 学校や病院では、官僚主義やお役所仕事の弊害を防ぐために競争原理の導入やサービスの多様化が強調され、公立以外の経営形態の学校や病院の参入が奨励された。

 例えば学校では、学力テストの点数やずる休みの減少について数値目標が設定され、目標の達成度によって教師に対する査定が行われた。
 評価が悪くなれば、学校そのものが閉鎖される厳しい措置がとられる場合もあったのだ。

 こうした政策について『ブレア時代のイギリス』の著者山口二郎氏は、次のように指摘。

 「犯罪について個人責任と社会環境という二分法を乗り越えようとしたのと同じように、公共サービスの提供に関しても、効率的ではあっても不平等な市場か、平等であっても非効率的で画一的な政府かという二分法を乗り越えようとしているところに、労働党の特徴を見ることができる」

 「『社会的包摂』の政策とは、人間の自立や社会参画の条件を整備し、背中を押すことであって、個人の生活について丸抱えで面倒を見ることではない。

 いささか専門的な言い方だが、労働党の経済政策は『完全雇用(full employment)』を実現することではなく、『十全な雇用可能性(full employability)』をあまねく行き渡らせること」

 教育政策の重視と相まってニューレーバーが強調するのは、メリトクラシー(能力業績主義)だ。

 「ニューレーバーの追求する平等というプロジュクトの中では、階級社会の打破、社会的流動性の向上が大きな目標である。

 そこで言う階級社会の打破も、分配の平等や格差の縮小という状態ではなく、人々の生き方に関わっている。

 労働者と資本家の間で資源配分のシェアを変更することが階級社会の打破なのではなく、人々の生き方や文化を変えることこそが、ニューレーバーの言う現代化(modernization)である。

 一方で特権を持った上層の存在は否定されるが、他方で伝統的な労働者の生き方も否定される。

 つまり、一つの仕事や境遇の中にいることを疑わず、そこで一定量の仕事をこなすという生き方は古いものとみなされる」

 「そこでは、市場適応型人間像が模範として想定されている。つまり、市場の中に積極的に身を投じ、成功の可能性を追求する者が、機会の平等の恩恵を受けることができるのである。

 ピーター・マンデルソンは、一九九六年にオックスフォード大学で行った講演の中で、労働組合に関するイメージを問われて、『彼らは怠け者だ』と答えた。

 現代化論者であるマンデルソンから見れば、従来の生き方を守りながら配分の平等を要求する労働者は怠惰に映るのであろう」

 「こうした市場とメリトクラシーとの結合は、ニューレーバーの教育政策の基礎となっている。

 ブレアの有名な『教育、教育、教育』という演説以来、この政権は教育予算を増やし、とくに初中等レベルの教育環境の改善には実績を残している。

 しかし、それはメリトクラシーに参入する若者を育成する前提作業として意味づけられている。

 教育大臣のルース・ケリーは、選挙直前にフェビアン協会で行った講演で、次のように述べている。

 『我々の目標は、人々が市場の圧力によってなすがままにされるのではなく、市場の中で自立的に活動できる人間を育成することである』」

 ちなみに、ピーター・マンデルソンは、ブレアの側近であり、1996年に『ブレア革命(The Blair Revolution)』を出版。

 2002年には新版『ブレア革命再論(The Blair Revolution Revisited)』に長い序文を寄せている。
 この本の表紙には、ゲバラの肖像画が描かれていた。

 ニューレーバーにとって、「機会の平等」と結びついたメリトクラシーこそが、新しい時代の革命を象徴する概念だったのだ。

 

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