Review
映画『ブラス!』 サッチャリズムに抗した炭鉱夫たちの魂の吹奏
「鉄の女」サッチャーがイギリス経済再生のために大ナタを振るっていた1992年。
イングランド北部、ヨークシャー地方の炭坑の町には、100年の伝統を誇る吹奏楽団グリムリー・コリアリー・バンドがあった。
音楽好きの炭鉱夫たちが集うこのブラスバンドもまた、サッチャリズムの嵐から無縁ではなかった。
当時イギリスでは、140もの炭鉱で延べ25万人の労働者が失業に喘いだ。
産業革命時にイギリスの基幹産業だった炭鉱は、完全に斜陽化していたのだ。
彼らの働く炭鉱もまた閉山に追い込まれていく。
苦しくなる生活、そして将来への不安のなか、炭鉱夫たちの心は揺れ動く。
そんななかでも、音楽への情熱を失わず、全英選手権出場を目指して団員たちを厳しく指導する老齢の指揮者ダニー。
ピート・ポスルスウェイト演じるダニーは、まるで父親のように団員たちに慕われていた。
しかしそんな彼にも病魔の手が・・・
一時は全英選手権への出場をあきらめかけた炭鉱夫たちだが、最後の演奏に希望を託そうとする。
家族の反対を振り切ってまで練習に没頭する炭鉱夫たち。
ついに全国大会の決勝、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでの演奏の時を迎える。
魂を込めた彼らの演奏は聴衆に絶賛された。
病院から抜け出し、その場に駆けつけたダニー。
「この10年来、政府は産業を破壊してきた。産業だけには止まらず、共同体や家庭生活を、発展の名に借りたまやかしの為に。
大勢が職を奪われたばかりか、大会に勝つ意欲や闘う意志までが失われた。しかし、生きる意志すら失ってしまえば、それは最も悲惨です。
皆さんは、アシカや鯨の為には立ち上がる。でも、彼らはごく普通に正直で立派な人間です。彼らは大変素晴らしい演奏をします。でも、一体、何の意味が?」
誰よりも吹奏楽を愛するダニーが、あえて「素晴らしい演奏をしても、それが一体何の意味があるのか?」と投げかけた問い。
サッチャリズムに対する痛烈な批判だ。
この映画が発表された頃から、イギリス映画が俄然面白くなってきたような気がする。
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