Review
映画『Caught in Between ~故郷(くに)を失った人々』 9・11テロ後の人種迫害に抗して
2002年9月11日に起きた9・11同時多発テロ。
テロの直後アメリカのマスコミは、テロリストとイスラム教徒は異なるから不当な差別をすべきではないと冷静な対応を呼びかけた。
しかしブッシュ大統領がアフガニスタンへの報復戦争に踏み切り、アメリカ国内では次第にイスラム系アメリカ人へのバッシングが高まっていった。
映画『Caught in Between ~故郷(くに)を失った人々』は、アメリカが対テロ戦争に突き進むなかで、イスラム系アメリカ人への差別や人権侵害が強まることに抵抗し、自由と人権を求め立ち上がった日系アメリカ人コミュニティーとイスラム系アメリカ人コミュニティーの交流を描いたドキュメンタリーだ。
9・11テロ以降、アメリカでは6,000名以上のイスラム系アメリカ人が、令状もないままに拘束され、囚われの身となった。
ある日突然FBIの捜査員がやってきて、何の容疑であるかも知らされず、どこに囚われの身になるのかも家族にすら教えることなく強制的に連行された。
法治国家の中で、かってのゲシュタポ以上の信じられないような人権侵害がまかり通った。
こうしたイスラム系アメリカ人への人権侵害に、最も勇気をもって抗議の声を挙げたのが日系アメリカ人のコミュニティーだ。
なぜなら、彼らは同じ迫害の歴史を経験していたから。
真珠湾攻撃を契機にアメリカが対日戦争に突入した1941年12月から1945年にかけて、アメリカ政府は、日本軍に捕らわれた捕虜との人質交換用に、ラテンアメリカ13カ国2,264人の日系人を強制連行した。
そのうちの約1,800人(80%)が日系ペルー人だった。
強制連行された日系ペルー人のほとんどは、テキサス州クリスタルシティにある、移民労働者用のキャンプに収容された。
1,700人近い日系ペルー人は、戦争終結までアメリカ合衆国内で収容され続けたのだ。
アメリカ政府は彼らを一方的に強制連行した。
にも関わらず、戦後彼らは「不法外国人」としての処遇を受け、アメリカからの強制退去を命ぜられた。
しかし、すべての日系ペルー人の再入国をペルー政府が拒否していたため、900人以上の日系ペルー人が、戦争で廃墟と化した日本へ強制送還された。
300人の日系ペルー人はアメリカ国内に残り、国外追放の命令に異議を申し立てる法廷闘争を行い、大部分は仮釈放され、農園で低賃金労働者として雇われた。
彼らにアメリカでの永住権取得手続きをする資格が与えられたのは1952年。
多くの人々はその後に市民権も獲得したが、こうした迫害と苦難の歴史は、日系アメリカ人のコミュニティーのなかで脈々と受け継がれてきた。
ゆえに彼らは、9・11以降イスラム系アメリカ人を襲う迫害を、かっての自分達自身の苦難の歴史と重ね合わせたのだ。
その歴史を学んできた日系アメリカ人の若者の一人は、この映画の中で次のように語っている。
「リスクが少ない立場にいる特権を持っている私たちは、今弱い立場にいる人たちの為に、立ち上がるべきではないでしょうか? いや、みながそうするべきです」
アメリカ国民であるにも関わらず、「祖国アメリカ」から敵とみなされ、さまざま差別と迫害を受けた二つのコミュニティーが交流を深めていく。
その様子を描いたこのドキュメンタリーは、現代アメリカが抱える民族・マイノリティー問題を、差別される側の視点から鋭く描き出している。
同時に、「痛み」を共有化することから生まれる人種や宗教を超えた交流と連帯のすばらしさを描いている作品でもある。
2004年に大阪で開催された上映会には、このドキュメンタリーを制作した映像作家リナ・ホシノさん、日系ペルー人に対する強制連行の損害賠償問題に取り組み、「日系ペルー人口述歴史プロジェクト」の代表を務めるグレース・メグミ・シミズさん、ムスリムとしてイスラム問題で活動している映像作家・民族学者のイルム・シークさんが訪れてパネル・デスカッションが行われた。
リナさんは9・11テロ以降のアメリカの中で、このドキュメンタリーを制作しようとした想いを次のように語った。
「ブッシュ大統領はテロリスト狩りを始め、多くの人が学校や自宅で捕まったとニュースで聞きました。イスラム教徒だと見なされた人々に対する憎悪が広がり、スカーフを巻いた女性などへの嫌がらせも公然となされるようになったのです。
政府が何をしようとしているのか予想もできなかったのですが、これは真珠湾攻撃以後、日系人に向けられた状況と同じだと感じました。サンフランシスコでは日系コミュニティーとイスラム系コミュニティーが交流しあっいましたが、こうした事実はマスメディアには報道されないと思い自分で記録を残す決心をしました」
イスラム系アメリカ人であるイルムさんは、9・11テロ以降のイスラム系アメリカ人に対するバッシングについて語った。
「私はアメリカの市民権を持ち、女性でしかもスカーフを巻いていなかったので、バッシングは比較的軽いほうだから今回もなんとか来日することができました。
9・11以降に逮捕された人々50人に、ニューヨークや刑務所で、あるいはインド、パキスタンなどに国外追放された先でインタビューをとりましたが、ほとんどが軽微な理由で逮捕されていたのです。
見た目がイスラム系であるという近隣からの通報が逮捕の理由だった場合もあります。警察からはイスラム教徒と見られる人々を見たら通報するよう呼びかけられていたのです」
日系アメリカ人であるグレースさんも大変貴重な発言をした。
「9・11以降、人々は安全に対し非常に敏感になりました。生活レベルで安全、脅威について考えるようになっわけですが、私たちには人権を失わずに安全を守ることが求められていると思います。
人権を奪ったり、制限することで安全が守られるのかは大いに疑問です。本当の意味での安全のためには、相互理解を深め、共に行動しなければいけないと思います。そのために私たちは真実や社会的正義を求めることをやめてはいけないのです」
『Caught in Between ~故郷(くに)を失った人々』のオフィシャル・サイトは以下。
http://www.caughtinbetween.org/
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