Essay
『戦略サファリ』が示唆する不確実性の時代を生き抜く戦略マネジメント(2)
デザイン・スクールがはらむ設計主義の限界
『戦略サファリ』の内容の大半は、戦略マネジメントを巡る10の学派の紹介とその批評に当てられている。
ミンツバーグが真っ先に取り上げるのは、デザイン・スクール(THE DESIGN SCHOOL)だ。
この学派は、戦略マネジメントの研究に最も影響力を与えつづけてきた「コンセプト構成プロセスとしての戦略形成」に焦点を当てている。
ミンツバーグはその特徴を以下のように述べる。
「組織を取り巻く外部環境に潜む機会や脅威(Opportunities&Threats)を考慮した上で、その組織の強みと弱み(Strengths & Weaknesses)を評価する」
「企業の内的能力と外的可能性を調和させる、つまり、両者を適合させることを目指した戦略形成モデルを提案している」
ミンツバーグはこのスクールの前提条件をいくつか指摘している。
「戦略形成とは、意図された計画的なプロセスでなければならない」
「計画的なプロセスの責任は、最高経営責任者(CEO)にある。CEOこそが唯一の戦略家である」
「戦略は独自性をもたなければならない:最も優れた戦略は、創造的プロセスから生まれる」
「独自性をもち、完全かつ明快、そして簡潔な戦略が策定されて初めて、戦略が実行可能となる」
「戦略形成において意識的な思考が中心的役割を担い、必然的に思考が実行に先立つ」、「組織は考える人と実行する人を分ける必要がある」
「戦略形成を学習プロセスとしてではなく、コンセプト構想のプロセスとして位置づけている」
これを踏まえミンツバーグは、この学派の「はじめにコンセプトありき」のアプローチは、戦略形成の可能性の幅を狭め、大きな誤りに導く危険性が高いと警告する。
典型的な失敗例は、ベトナム戦争でのマクナマラ戦略だ。
「有名なハーバード出身のMBAであるロバート・マクナマラが国防長官の時に、軍事戦略に関するアプローチを次のように披露した。『まず国家の外交政策を定め、この政策を実現するための軍事戦略を策定する。そしてこれを実行するための軍備を整える』。彼は、まさにこれをベトナムで実行したが、『データの選択と並べ替え』に際して『形式的かつ分析的であれ』ということにあまりにも執着してしまった。その結末は惨憺たるものだった。このようなアプローチが失敗に終わるということは、ベトナムの水田に立てば明々白々なことだった」
同様の誤りは、かつて社会主義計画経済の破産でも明らかとなった。
共産党の一党独裁の下で行われていた計画経済こそ、このデザイン・スクールの最も典型的な姿だったのかもしれない。
計画経済のみならず、かつての社会主義革命の試みは、おしなべて現実に対して理念的、概念的、合理的にアプローチしようとした。
それは現実の矛盾に対抗する強烈な世界観、価値観だったがゆえに、短期的には極めて強力な戦略となり得た。
しかし、あらかじめ決められたコンセプトを現実に適用しようとしたがゆえに、生起してくる様々な問題は戦略の再検討にフィードバックされることなく、リゴリズムや献身性だけが強調されて、最後には自己崩壊した。
とは言え、戦略マネジメントの分野で、実はデザイン・スクールのような設計主義は強い影響力を保っている。
これは現実に対して合理主義的なアプローチを取ろうとする人間の本性に根ざしたものなのかも知れない。
デカルトが述べたように、良い設計図がなければ、良い家をつくれないと考えるのは、ある意味当然だからだ。
とりわけ環境が激変し、混乱した状況のなかに置かれ、徐々に活動が停滞しつつある組織では、明確な戦略を求める声が高まり、コンサルタントが求められる。
しかし、デザイン・スクールの設計主義的なアプローチのみで無理に戦略を明確化させようとすること自体がリスクを増大させる可能性もある。
「組織構造は柔軟でなければならないが、組織のリーダーが新しい戦略を考えたからといって、簡単に修正できるものではない。それでも断固としてこの信念を貫いてしまったがために、泣きを見た組織は数知れない」
「不確実な状況が続く時に危険なのは、明確な戦略がないことではなく、むしろ『早まって結論を出すこと』である」
こうした指摘は、非常に示唆に富んでいる。
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